腸内細菌の仕事は便をつくること
善玉菌と悪玉菌の混合で、成人では便1グラム当たり数千億個もある
便の中身をつくつている物質のうち、その3分の1は腸内細菌の死骸であるといわれるように、腸内細菌は便をつくるのに大きな役割を担っています。
善玉菌と悪玉菌の混合で、成人では便1グラム当たり数千億個が含まれるとされます。便の中に、いかにたくさんの細菌が存在するか、改めて驚かされる数値です。
さて、赤ちゃんが生まれてきて、いつのごろから腸内細菌と共存するようになるのでしょうか
人間が生まれてはじめて排泄する便を「胎便」とか「かにばば」と呼んでいますが、この便は通常、無菌です。しかし、それも束の間、3~4時間後に排泄される便にはもう細菌が出現するようになります。母乳を飲むようになると、細菌の数は急激に増加してきます。
最初に赤ちゃんの腸に登場してくる細菌は、ブドウ球菌や大腸菌などの悪玉菌です。次いで、生後3~4日目に突如、ビフィズス菌が現われると、5日目には悪玉菌を圧倒して、一大勢力を誇るようになります。そして、授乳期の間、驚くべきことに、腸内細菌の90%以上がビフィズス菌で占められます。
こうして最初の悪玉菌が優勢である時期は、赤ちゃんが下痢や感染症を起こしやすい時期と重なります。しかし、ビフィズス菌が優位になると、赤ちゃんの便は悪臭がなく、甘酸っぱい匂いがするほどで、多くの病気から守られるようになります。
赤ちゃんの便が甘酸っぱく匂うのは、ビフィズス菌によって、乳糖が分解され、酢酸や乳酸などの有機酸をつくるためです。いうまでもなく、これらの有機酸は酸性ですから、病原菌の増殖を抑え、感染を防止してくれる働きをします。
なお、母乳で育っている赤ちゃんのほうが、粉ミルクなど人工栄養で育っている赤ちゃんよりも、ビフィズス菌がより優位だといわれています。乳児が離乳食を摂るようになると、だんだん便も大人と同じようになり、腸内細菌のバランスも大人に近付いてきます。
その後、腸内細菌のバランスは安定期に入りますが、年齢を重ねるにつれて、ビフィズス菌の勢力は衰退するようになり、60歳ぐらいになると、ビフィズス菌はわずか30% 以下にまで低下します。それに反比例するかのように、悪玉菌が勢力を伸ばしてきます。それで、便も若いときよりも悪臭を放つようになるし、肉体の老化を促進することにもなります。
そこで、ビフィズス菌を増やす食事を摂るようにすると、こうした腸内環境の老化をくい止め、肉体の老化を防止するのに効果的であることがわかっています。
いい例が、長寿者の多いコーカサス地区グルジオアの老人たちです。ここの長寿者たちの腸内には若い人と同じくらい善玉菌が多いといわれます。
また、腸内細菌の権威である光岡博士の調査によれば、かつて日本の長寿村として知られた山梨県上野原町桐原の長寿者たちの腸内にも、東京都の青壮年と同じくらい善玉菌が多かったそうです。
こうした長寿者たちは共通して、ヨーグルトであったり、雑穀類や野菜、イモ類であったり、善玉菌を増やす食事を摂っていることが認められています。